1 はじめに

 遺産分割協議は、共同相続人全員でしなければならず、そうでなければ無効です(審判も同様)。通常、相続人の確認は、被相続人の死亡時の戸籍によってしますが、それだけでは十分でないことがあります。これまで、個々の事案の多くについて、ブログで紹介してきましたが、最後に体系的に整理してみます。

 

2 戸籍に嫡出子としての記載があるが遺産分割協議等の相手方にならない場合

(1)典型例は、他人の子供を夫婦の子供として届出をした場合です(藁の上の養子)。この場合、親子関係不存在確認の訴えを通じて親子関係・相続関係を否定することになりますが、事実上の親子として過ごした月日の重みから、そのような訴えが権利濫用として許されない場合があります(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1448/)。

(2)嫡出否認・親子関係不存在確認の訴えが認められた場合

① 嫡出否認の訴えには、当事者適格の制限(父親のみ、母親・子は不可)や出訴期間の制限(子の出生を知った時から1年以内)があります(775条、777条)。ただ、提訴さえ有効になされていれば後日父親が死亡したとしても訴訟は維持され、嫡出否認の訴えが認められれば、親子関係は否定されて、当該子を遺産分割協議等の相手方にする必要はなくなります。

なお、妻が、夫の同意を得て、夫以外の男性の精子を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、夫は嫡出否認をすることはできません(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1508/)。

② ちなみに、嫡出子(結婚した夫婦の子)については、推定規定があります(772条)。この推定を覆すには、子供が生まれない状況であったことを主張立証する必要がありますが、その状況かどうかは、外形説に従って判断します(客観的にみて妊娠が不可能な場合。例えば、夫が長期国外出張中等)。このような外形的状況の主張立証があれば、母親や子でも出訴期間の制限なく、親子関係不存在確認の訴えを提起することができ、その請求が認められれば、遺産分割協議等の相手方にする必要はありません。

ただし、夫の子ではないというDNA鑑定の結果のみでは、嫡出推定を覆せず、親子関係不存在確認の訴えも認められません(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1563/)。

(3)戸籍上の相続人が死亡しているのであれば、その者を遺産分割協議等の相手方にする必要はありませんが、単なる行方不明者であれば、その行方不明者を遺産分割協議等の相手方にしなければなりません(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1430/)。

(4)相続欠格者https://kawanishiikeda-law.jp/blog/910/

(5)相続廃除された者(https://kawanishiikeda-law.jp/news/1383/)

 

3 戸籍に嫡出子・認知といった記載はないが遺産分割協議等の相手方にしなければならない場合

(1)胎児

胎児は、出生を停止条件とされていますが、相続についての権利能力が認められています(886条)。また、死後認知の訴え(787条)が認められたときもこのような場合にあたるでしょう。

ちなみに、死後認知の場合「既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」とされています(910条)が、胎児の場合そのような規定はなく、胎児を省いた遺産分割協議等は、その胎児が出生した場合には無効になると解されます。ですから、胎児の出生が確認されるまで、遺産分割協議等は控えられるのが通常です。

ちなみに、胎児が生まれた場合、その親が法定代理人になります(818条、824条)。例えば、夫Aが死亡した場合において、妻Bと子(胎児)Cがいたとき、BがCの母として法定代理人になります。しかし、この場合、BCの利益は、相続分について一方が増えれば他方が減る関係にあって、相反するので、Cのために特別代理人を選任した上で遺産分割協議をしないと、これも無効になるので注意が必要です(826条)。

(2)死後認知の場合(787条)

なお、死後冷凍保存した精子で受精した子は、死後認知をすることができず、遺産分割協議等の相手方にはなりません(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1526/)。

(3)共同相続人の1人から遺産分割前に相続分の譲渡を受けた者(905条)は、相続人の地位を承継すると解されているので、遺産分割協議等の相手方になります。包括受遺者も「相続人と同一の権利義務を有する」ので、同様です(990条)。

弁護士法人村上・新村法律事務所