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前々回のブログでは、身寄りのない方が亡くなった場合について「相続人不存在」という視点から、情報提供しました(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/3097)。前回は、身寄りのない方の生前に役立つ制度として「任意後見・法定後見」の情報提供をしました(https://kawanishiikeda-law.jp/blog/3156)。

今回は、身寄りのない方が死亡された時に役立つ制度として「死後事務処理委任契約」の解説をします。

死後事務処理委任契約とは

両親、配偶者、子供、兄弟姉妹といった身寄りが全くない人(便宜上、Aと称します。)が死亡した場合、身辺整理等を依頼する契約をして死後事務処理を行ってもらうことができます。

Aが死亡した場合、例えば、BがAの任意後見人になっていたとしても、その法的根拠は委任契約にありますから、Bの任務はAの「死亡」によって終了(653条1号)し、Aのための行為はできなくなるのが原則です。また、Aの財産は相続人(これがいない場合には相続財産管理人)に帰属するので、原則として、Bは、Aの財産からの支出もできなくなります(法定後見の場合も結論的に同様と考えられています。)。

ただ、それではあまりに窮屈です。民法の委任の規定の中には「応急処分」といって、急迫の事情があるときには必要な処分を認める条項(654条)があり、また、事務管理(697条以下)という定めもあります。そこで、これらを解釈し、Aが死亡した後でもBは一定の行為ができるという結論を導き出そうと、実務上も学説上も努力がされていますが、必ずしも十分ではありません。

 

幸い、最3小判平成4年9月22日金融法務事情1358号55頁は、前述した民法653条1項は任意規定であって当事者がこれと異なる合意をすることも許されるとして、委任者の死亡によっても終了しない旨の死後事務処理の委任契約を有効としています。

また、委任契約は何時でも解除できる(651条)というのが原則ですが、例えば、委任者の死後の事務処理をしようとする場合、委任者の相続人と利害対立する可能性があります。委任者の財産は既に相続人に帰属しているからです。ところが、相続人が自由に委任契約を解除できるとなると委任事務を満足に遂行できなくなるので、そのような委任契約の解除には制限的に解釈されています(東高判平成平成21年12月21日判タ1328号134頁)。

そのような次第で、死後事務処理委任契約というものが広まっています。遺言で指定できることも限られていますので(遺言事項については、弊所ブログをご覧ください、https://kawanishiikeda-law.jp/blog/1917)、Aの死亡後にBが困惑しないためにも、AB間でこのような契約を交わしておいた方がよい場合もあります。

 

 

死後事務処理委任契約の範囲

問題は、死後事務処理委任契約で対応できる委任事務の範囲です。前述したとおり、委任者の死亡によりその財産は既に相続人のものになっていますから、相続人の権利を害さない配慮が必要です(事務処理として、緊急性、必要性がある場合で、相当性が認められるものであるべきです。)。また、限定されているとはいえ、遺言で出来ることは遺言でするようにしないと遺言制度の意義そのものがなくなってしまいます。その意味で、委任事務の範囲として代表的なものとしては、病院・施設等の明渡し、その費用の支払、葬儀、その費用の支払、永代供養があります。

既に相続人の財産(身寄りのないAについていえば、債権者や特別縁故者等の利害対象)になってしまったという意味で、上記費用の支払ができるかどうかについて慎重な意見(松川「本人の死亡と成年後見」実践成年後見38号4頁以下)もありますが、支払はできないが、病院・施設に立入って明渡しはできる、葬儀はできるというのも現実的ではないと思われます。

 

永代供養については、祭祀に関する権利の指定が遺言事項(897条)である点で検討が必要ですが、葬儀を終えたものの、納骨しないまま放っておくこともできません。身寄りのないAが墓を有していない場合、その納骨は永代供養にせざるをえないと考えられますので、死後事務委任契約の対象とすることも可能と考えます(松川編〈田尻〉「成年後見における死後の事務〈第5章葬儀費用〉」日本加除出版株式会社149頁)。ただ、費用が高額になる場合もあるので、その支払は、Aの生前、特に判断能力が十分な時点でしておいた方がいいでしょうし、それが無理なら、遺言で明記すべきでしょう。

 

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