遺言執行とは遺言の内容を実現することであり、これを行う者を遺言執行者といいます。一般の方には難しいかもしれませんが、要望も多く、数回連載することにしました。最初は、遺言事項の確認です。遺言ですることができる事項は法定されていると解するのが通説です。法定された遺言事項の中で、遺言執行が必要か、必要だとしてもその執行が遺言執行者によらなければならないのかという視点から、整理したのが以下の一覧です。

 

1.執行が必要で、かつ、遺言執行者のみが執行できる事項
①    認知(781条2項)

②    相続人の廃除等(893条、894条2項)

③    一般財団法人の設立(一般法人法152条2項)

2.執行は必要であるが、相続人でも執行できる事項
④    祭祀主宰者の指定(897条1項ただし書)

⑤    遺贈(964条、ただし、遺言執行者がいない場合、1012条2項)

⑥    特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言、1014条)

⑦    信託の設定(信託法3条2項)

⑧    生命保険金の受取人の指定と変更(保険法44条1項)

3.遺言の効力発生と同時に内容が実現されるので執行の余地がない事項
⑨    未成年後見人の指定(839条)

⑩    相続分の指定・指定の委託(902条1項)

⑪    特別受益の持戻し免除(903条3項)

⑫    遺産分割方法の指定・指定の委託(908条)

⑬    遺産分割の禁止(908条)

⑭    共同相続人間の担保責任の減免等(914条)

⑮    遺贈の減殺方法の指定(1047条1項2号ただし書)

⑯    遺言執行者の指定・指定の委託(1006条1項)

 

補足1

最近、両親、配偶者、子供、兄弟姉妹といった身寄りが全くなかったり、縁遠くなっている人(便宜上、Aと称します。)が増えていますが、Aが、死亡した場合に備え血縁のない信頼できる人(便宜上Bと称します。)に死後事務処理を委託することがあります。ところで、上記④記載のとおり、祭祀主催者の指定は遺言事項ですが、祭祀に関する権利とは、墓地やそこに納められた遺骨の権利も含み、例えば、これを改葬(墓を引っ越すこと)等も、原則としてできるということです。Aが、その意味を深く考えず、Bに永代供養を託していたのに、遺言でⅭを祭祀主催者と指定したことから、紛争になった事案がありました。

 

例えば、東高判平成21年12月21日(判タ1328号134頁)は、被相続人Aが、生前に写真を墓に納める形での永代供養をBに依頼し300万円を払ったところ、Aから遺言で祭祀主宰等の権利の指定を受けたCから、その金員の返還を求められたという事例です。結局、裁判所は、Aの委託した死後の事務処理契約を解除することは特段の事情のない限り許されないとした上で、Bは永代供養を現実に行っているとして、Ⅽの請求を認めませんでした。ただ、特に祭祀については血縁でないBが思うがまま対応することが難しい場合も多いでしょうから(強くはいい難い)、その迷惑にならないよう、遺言の記載には注意する必要があります。

 

 

補足2 

上記⑧のとおり、遺言において、生命保険金の受取人を指定乃至は変更することは可能ですが、それが不倫関係にある相手方であった場合、そのような遺言は効力を有するでしょうか。

この問題を検討する上で、最1小判昭和61年11月20日民集40巻7号1167頁以下(以下、昭和61年判決)が参考になります。それは、Aには妻Bがいるにも拘らず不倫関係にあった女性Cに対し遺産の3分の1を包括遺贈した遺言(以下、本件遺言)について、遺言の目的が「不倫関係の維持継続」にあるのか「生計をAに頼っていたCの生活保全」にあるのか、また、遺言の内容が「相続人らの生活の基盤を脅かすものといえるか」といった視点から、民法90条に違反し無効であるかを検討したものです。

結局、昭和61年判決の事案では、①AはCと昭和44年ごろから死亡時まで約7年間半同棲のような形で不倫関係を継続していたが、②もともとAと妻Bの夫婦関係は同43年ころから別々に生活する等その交流は希薄で、夫婦としての実体はある程度喪失していた上、Cとの関係は早期にAの家族に公然なっていたこと、③本件遺言は、死亡約1年2か月前に作成されたが、遺言の作成前後において両者の関係の親密度が特段増減したという事情もなく、④本件遺言の内容は、妻であるBとその子及びCに全遺産の3分の1ずつを遺贈するものであり、当時の民法上の妻の法定相続分は3分の1であって、ABの子も既に嫁いで高校の教師等をしているなどの事実関係が指摘され、本件遺言を有効としました。

しかし、同様の視点から、生命保険契約において生前に不倫相手を死亡保険金の受取人とした指定を公序良俗に反し無効とした事例(東高判平成11年9月21日金商1080号30頁)が存在しますので、本問のように遺言による指定乃至は変更の場合であったとしても、諸般の事情を総合的に考慮した上で、同様に無効とされる場合があることになります。

 

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