1 預貯金債権は、前回ブログ(遺産分割審判②対象になるか否か、https://kawanishiikeda-law.jp/blog/2633/ )で指摘した最1小判昭和29年4月8日がいう「金銭その他の可分債権」として、当事者間の合意なき限り、遺産分割審判の対象にならないと、実務上長らく取り扱われてきました。

しかし、そのように考えると次のような事案で不都合が生じます。例えば、亡Aの共同相続人として子B、Cがいたとして、Aの遺産としては、260万円の不動産と4000万円の預貯金があったとします。それに加えて、Cが5500万円の生前贈与(特別受益)を受けていた場合、B、Cそれぞれの具体的相続分は、

各4880万円(=9760万円〈=不動産260万円+預貯金4000万円+生前贈与5500万円〉÷2)となります。

 

2 ここで、預貯金が遺産分割審判の対象にならないとすると、

Bの取得分は、2260万円

遺産分割審判分(不動産260万円)+当然分割分(預貯金2000万円)となり、

Cの取得分は、2000万円=

遺産分割審判分(0円)+当然分割分(預貯金2000万円)となり、これに生前贈与分を加えると、合計7500万円になって、遥かに具体的相続分を超えた取得になります。

ところが、預貯金が遺産分割審判の対象になれば、

Bの取得分は、4260万円=

遺産分割審判取得分(不動産260万円+預貯金4000万円)となり、

Ⅽの取得分は、5500万円(生前贈与)となって、具体的相続分に照らしてもまだ納得できる結果になると思えるからです。

 

3 そこで、最大判平成28年12月19日民集70巻8号2121頁は、上記と類似ずる事案において「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」としました。

 

ちなみに、上記最高裁が指摘した普通預金契約・通常貯金契約の内容・性質とは「一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが、その結果発生した預貯金債権は、口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われるものである。また、普通預金契約及び通常貯金契約は預貯金残高が零になっても存続し、その後に入金が行われれば入金額相当の預貯金債権が発生する。このように、普通預金債権及び通常貯金債権は、いずれも、1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るものである。そして、この理は、預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち、預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。そして、相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎないというべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され、その後口座に入金が行われるたびに、各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に、入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは、預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり、その合理的意思にも反するとすらいえよう。」というものでした。

 

また、上記最高裁が指摘した定期貯金の内容・性質とは「定期貯金の前身である定期郵便貯金につき、郵便貯金法は、一定の預入期間を定め、その期間内には払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項4号)、原則として預入期間が経過した後でなければ貯金を払い戻すことができず、例外的に預入期間内に貯金を払い戻すことができる場合には一部払戻しの取扱いをしないものと定めている(59条、45条1項、2項)。同法が定期郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限する趣旨は、定額郵便貯金や銀行等民間金融機関で取り扱われている定期預金と同様に、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上、貯金の管理を容易にして、定期郵便貯金に係る事務の定型化、簡素化を図ることにあるものと解される。郵政民営化法の施行により、日本郵政公社は解散し、その行っていた銀行業務は株式会社ゆうちょ銀行に承継された。ゆうちょ銀行は、通常貯金、定額貯金等のほかに定期貯金を受け入れているところ、その基本的内容が定期郵便貯金と異なるものであることはうかがわれないから、定期貯金についても、定期郵便貯金と同様の趣旨で、契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。そして、定期貯金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、預入期間内には払戻しをしないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。しかるに、定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する。他方、仮に同債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい。」というものでした。

 

4 遺産分割前に預貯金債権を行使する方法

以上の次第で、遺産たる預貯金債権を行使するには、遺産分割(相続人全員による協議・同意か家庭裁判所の審判)によらざるを得なくなりました。ところが、相続人全員の同意・協議が得られない場合において遺産分割審判に至るまでには、それなりの時間を有します。ただ、それでは生活が立ち行かない相続人もでてくることから、次のような制度が存在します。

 

(1)預貯金の仮払手続

民法909条の2-3項前段は「各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。」としています。

そこで、各共同相続人は、預貯金債権の3分の1までについて、法定相続分の割合に従い、150万円(上記法務省令の定める金額)を限度として、引き出せることになります(引き出した場合は、遺産分割の一部として「取得したものとみなす」とされています。同条項後段)。

 

(2)預貯金の仮分割の仮処分

家事事件手続法200条3項は「家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第四百六十六条の五第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。」としています。

この制度には、上記預貯金の仮払手続と異なり「債権額の3分の1」や「法務省令で定める額」といった制限がありません。ただ、①家庭裁判所に遺産分割審判の申立等があった場合において、②「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁」等の「必要」があり、③他の共同相続人の利益を害さないことが求められており、要件が厳格になっています。

 

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