自筆証書遺言②全文自書
遺言は厳格な要式行為として「この法律に定める方式に従わなければ、することができない」とされており(960条)、その方式=要件を充たさないと無効となります。
自筆証書遺言の要件は「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」とされています(968条1項)。自筆証書遺言は簡便なため、多く利用されていますが、要式性を欠いて無効になるケースも多く見られます。
今回は、自筆証書遺言の要件のうち「全文自書」に関する問題を検討してみます。
全文自書でなければならない
添え手がされた場合も有効とした例があります。しかし、それは、全文自書が求められた理由を「筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができるからにほかならない」とした上で、以下の厳格な要件においてのみ許されるとした判断であることに注意が必要です(最1小判昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁)。
① 遺言書作成時に自書能力があったこと
② 添え手が単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること
③ 添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡のうえで判定できること
ワープロ・コピーによるもの
(1)従前の議論
① ワープロ・コピーによる遺言は無効とされていました。平素もっぱらタイプライターを使用しており、自らタイプして作成された英国人作成の自筆証書遺言を有効とした例(東家審昭和48年4月20日家月25巻10号113頁)もありましたが、一般化することはできないとされていました。
② ただ、物件目録のワープロ書きについては、議論があり「タイプ印書された右不動産目録は、本件遺言書の中の最も重要な部分を構成し、しかも、それは遺言者自身がタイプ印書したものでもない」といったケースについて、その効力を否定したものがありました(東高判昭和59年3月22日東高民時報35巻1~3合併号47頁以下)。しかし、このような判例の結論を支持しながらも「一般的にみて、添付の不動産目録がいわば念のために付加された明細書のごときものであれば、それなしでも遺言者の意思は明確であり、目的物件は特定できるから、遺言の効力に影響を与えない」とする見解(上野「タイプ、ワープロによる遺言」判タ688号305頁以下)もありました。
特に図面等については「遺言の対象や内容を明確にするために写真・図面及び一覧表等を用いること一切を否定するものではなく、遺言者が図面等を用いた場合であっても、図面等の上に自筆の添え書きや指示文言等を付記し、あるいは自筆書面との一体性を明らかにする方法を講じることによって、自筆性はなお保たれ得る」とした例もありました(札高決平成14年4月26日家月54巻10号54頁以下)。
③ なお、カーボン複写による自筆証書遺言を有効とした例がありました(最3小判平成5年10月19日家月46巻4号27頁)。カーボン複写はコピーの普及により、領収書以外、最近はあまり見掛けなくなりましたが、遺言は性質上、その作成日と効力発生日即ち遺言者の死亡日との間にズレが生じるものであり、昔カーボン複製で作られた遺言に現在出くわす機会がないではなく、また、著名な判例でもあることから紹介することにしました。
(2)相続法改正
現在では、この点に関し相続法が改正され、民法986条2項は「自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。」としています。
つまり、自筆証書遺言でも、現在、目録については、ワープロ書きが許されることになりました(ただし、頁毎に署名・押印が必要です。)。
自筆証書遺言が複数枚に及ぶ場合
自筆証書遺言が複数枚に及ぶ場合、通常割印をしますが、そのような割印がなかったとしても、最高裁は1通の遺言書であると確認できる限り、それを有効としています(最1小判昭和36年6月22日民集15巻6号1622頁)。
相続の法律相談は村上新村法律事務所まで
大阪オフィス
https://g.page/murakamishinosaka?gm
川西池田オフィス
https://g.page/murakamishin?gm
福知山オフィス
https://g.page/murakamishinfukuchiyama?gm