相談1 : 遺留分の基礎財産額の計算には債務を入れるのですか?

 

【家族構成と生い立ち】

私は、現在30歳で、家族としては3つ上の兄の外、今年で60歳になる父がいました(母は小学生の頃に死んでいます。)。私は、高校卒業してから3年浪人した後、22歳の時に父の援助を受けてアメリカの大学に行きました。ただ、卒業も難しく25歳で中退し、それからは家族とも音信不通で、アメリカで気ままに生活していました。

 

【父の死亡と遺言】

ところが、今年(令和3年)4月、久々に日本に帰国したので、実家に立ち寄ったところ、1月に父が亡くなっているのを知りました。兄とは折り合いが悪かったのですが、しぶしぶ尋ねてみると昨年秋頃、末期癌がみつかり、そのまま死んでしまったということです。

父は、自宅兼マンション(以下、マンション甲といいます。)を経営していたので、それはどうなったのかと尋ねると、父の遺言を見せられ、そこには「マンション甲は兄に相続させる。」と書いてあり、そのまま兄の名義になっていました。

 

【相続財産と遺留分】

父の財産としては、外に200万円ばかりの預金があるだけで、兄からは、父や兄がどれだけ苦労したかを1時間ほど愚痴られた後「お前の分だ。」と吐き捨てるようにいわれ、100万円を叩き付けられ、そのまま私は実家を追い出されました。

 

ただ、あまりの仕打ちに納得がいかなかったので、無料法律相談にいったところ、私には父の遺産について4分の1の遺留分がある(900条4号、1042条2号)といわれました。そこで、「マンション甲の時価8,000万円の4分の1は俺のものだ。」と兄にいったところ、兄からは「マンション甲を買った時の銀行の借金が4,000万円も残っているので、そんなにある筈がないだろ。」とけんもほろろでした。

 

兄のいっていることは本当なのでしょうか。

 

回答1 : 遺留分の基礎財産額の計算には債務を入れます。

 

お兄さんのいっていることは本当です。

この点に関し、最3小判平成8年11月26日(民集50巻10号2747頁)がありますから、紹介します。これは、被相続人が相続開始時、つまり、あなたのお父さんが死亡した時、債務を有していた場合の遺留分の侵害額の算定方法を述べたものです。

 

最3小判平成8年11月26日(民集50巻10号2747頁以下,家月49巻4号34頁以下,判タ931号175頁以下)
遺留分の額は、民法1029条(現1043条)、1030条(現1044条)、1044条(現削除)に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに…1028条(現1042条)所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。

 

数式にすると、以下の通りになります。

 

遺留分算定の

基礎財産額

相続開始時の財産額+贈与額-債務額 ・・・①

 

遺留分額遺留分の基礎財産額×遺留分の割合×法定相続分

-特別受益額(贈与額)  ・・・②

 

※遺留分の割合

直系尊属のみが相続人の場合:1/3(1042条1号)

その他の場合:1/2(1042条2号)

※法定相続分

本件では子2人による相等しい相続分(900条4号):1/2

 

遺留分侵害額遺留分額-相続によって得た財産額

-負担すべき相続債務   ・・・③

 

遺留分算定の基礎財産額

ポイントは、上記①乃至③なのですが、ここでは相談1と関連する①について、簡単に解説します。

 

遺留分額を定めるにあたって、基礎財産額の算定は、1043条1項の定めるとおりです。この点は条文上明らかなのですが、遺産分割の基準となる具体的相続分を算定する場合と少し違っている点が重要です(具体的相続分についてはこちら https://kawanishiikeda-law.jp/blog/926/)。

 

一番の違いは「債務」が含まれる点です。

具体的相続分の算定は、遺産分割という積極財産に関するものなので、債務は考慮されません。債務は相続により当然分割されるので、遺産分割の必要はありません。債務については、相続人は法定相続分に従って相続することになります。

 

ところが、遺留分は、遺留分侵害者の有する相続財産から、法定相続人がどれだけ実質的な利益を受けるべきかという視点から判断されるので、相続財産の実体(プラス・マイナス)を考慮する必要があるという訳です。

 

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