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昨日(令和3年6月23日)、夫婦別姓に関する最高裁決定がでました。平成27年に夫婦別姓を認めない民法等規定が合憲であるとの判断がなされていて(以下、平成27年判決といいます。)、それほど年月が経たない状況で大法廷(3つの小法廷各3人の裁判官全員合計15人で決めるものです。従来の最高裁の判断を変更するには、大法廷によることが必要とされています。)に回付されたので、判断が変更されるのかと思っていました。ところが、やはり従前どおり合憲で、違憲と述べた裁判官は4人でしたが、平成27年判決のときは5人だったので数だけでみると、むしろ後退したという評価もあります。

 

最高裁決定の内容は、下線部以下で指摘したとおりです。ポイント部分は、色付けしましたが、結局は、立法政策の問題で、現行民法750条が「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」としているところ、抗告人らが「夫は夫の氏、妻は妻の氏を称する」とした婚姻届を、市が受理せず拒んだ処分は、その時点の判断としては、婚姻に関する平等を定めた憲法24条に違反するとはいえないということでした。決定の中身については、新聞他で結構分析紹介されているので省略し、今回は意外と触れられていない、仮に夫婦別姓になると戸籍制度はどうなるのかについて、簡単に解説したいと思います。

 

現行戸籍法6条前段は「戸籍は、市町村の区域内に本籍を定める一の夫婦及びこれと氏を同じくする子ごとに、これを編製する。」としていて、夫婦同氏同一戸籍の原則を採っています。画像は法務省がHPに載せている「戸籍の記載のひな形」の一部です(全部をご覧になりたい方は、以下のリンク先を参照下さい。法務省:戸籍のABC(Q1~Q5) (moj.go.jp) ただ、ひな形なので仕方がないのですが、甲野善太郎さんの家族関係は、中々複雑です、笑)。この画像によれば冒頭の筆頭者について本籍欄、氏名欄が存在し、そこに記載された一つの「氏」を前提に後は夫や妻の名前だけが記載されています。つまり「氏」が戸籍の編製基準とされている訳です。

ところが、夫婦別姓を認めるとこの戸籍制度を変えることになります。戸籍廃止論もあるようですが、現実的な議論としては、①氏を基準とする同氏夫婦同籍・別氏夫婦別籍案(夫婦同氏同一戸籍の原則を維持した上で、例外的に別姓を選択した夫婦について個別の戸籍を編製するもの。ただ、夫婦の個別戸籍の「連絡」をどうするかという問題が生じます。)、②夫婦を基準とする別氏夫婦同籍案(冒頭の筆頭者の氏名欄に夫婦それぞれの氏名を記載するというもので、後の夫、妻欄にも、名前だけでなく、氏名を記載します。それは、現行戸籍法13条1号が「戸籍内の各人」ついては「氏名」を記載しなければならないとしているのと整合性があると主張します〈むしろ、各人の名前のみを記載する現在のやり方の方がおかしい。〉。ただ、家制度を廃止した日本では「異氏同籍者」の「範囲の確定」がすぐに問題になってくるのではないかと批判されている他、現在の戸籍制度を大きく変えることにもつながります。)が主張されているようです。

 

何れにせよ、まだ幾つかの問題が残されていて、今回の最高裁の裁判官の意見の中には、夫婦別姓を認めないことは憲法24条に違反すると述べながらも、現在の戸籍等の法制度を前提とする限り、抗告人らの婚姻届を受理しなかったのも止むを得ない(多数意見の結論を是認)としたものもありました。ただ、この点については、憲法上の人権を保障するために制度がある筈なので論理が逆転しているのではないかという批判もあって、まだ議論は続くようです。

                                                                                      

最高裁決定理由

本件は、抗告人らが、婚姻届に「夫は夫の氏、妻は妻の氏を称する」旨を記載して婚姻の届出をしたところ、国分寺市長からこれを不受理とする処分(以下 「本件処分」という。)を受けたため、本件処分が不当であるとして、戸籍法122条に基づき、同市長に上記届出の受理を命ずることを申し立てた事案である。本件処分は、上記届出が、夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称するとする民法750条の規定及び婚姻をしようとする者が婚姻届に記載しなければならない事項として夫婦が称する氏を掲げる戸籍法74条1号の規定(以下「本件各規定」という。)に違反することを理由とするものであった。所論は、本件各規定が憲法14条1項、24条、98条2項に違反して無効であるなどというものである。

しかしながら、民法750条の規定が憲法24条に違反するものでないことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁平成26年(オ)第1023号同 27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2586頁(以下「平成27年大法廷判決」という。))、上記規定を受けて夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載 事項と定めた戸籍法74条1号の規定もまた憲法24条に違反するものでないことは、平成27年大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。平成27年大法廷判決以降にみられる女性の有業率の上昇、管理職に占める女性の割合の増加その他の社会の変化や、いわゆる選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合の増加その他の国民の意識の変化といった原決定が認定する諸事情等を踏まえても、平成27年大法廷判決の判断を変更すべきものとは認められない。憲法24条違反をいう論旨は採用することができない。

なお、夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは、次元を異にするものである。本件処分の時点において本件各規定が憲法24条に違反して無効であるといえないことは上記のとおりであって、この種の制度の在り方は、平成27年大法廷判決の指摘するとおり、国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである。

弁護士法人村上・新村法律事務所