天の川
今日は令和3年7月6日、明日は七夕ですね。これに関する有名どころは、織姫と彦星のお話でしょうか。
天帝の娘である織姫は、機織の名人でしたが仕事ばかりしていることを心配し、これまた働き者の牛使いである彦星を紹介して結婚させたところ、互いに夢中になりすぎて働かなくなったので、怒った天帝は二人の間に天の川を入れで会えなくしたというものです(ただ、これまた二人はショックを受け益々働かなくなったことから、年に一度天の川を渡って会うのを許したというオチがつきます。)。
ただ、この話、教訓としてはありでしょうが、天帝がしたことは「働かないことを理由とする離縁」ですから、現代的には頂けません(^-^;
最近増えてきた相談の中に「ひこきもりの子供を相続廃除できるか」というのがあります。相続廃除(民法892条)とは、親の考えで子供の相続権を奪う制度で、その要件は子に「著しい非行」等があったことです。非行の例として「酒色に溺れる」というのがありますが、遊びが過ぎることを指し、夫婦でラブラブだった織姫彦星とは少し違います。働かないことにプラスして、親への暴力や親の財産の窃取等が続けば「著しい非行」といえる場合もあるのでしょうが、単なるひきこもり→働かずお金も払わず親に生活の面倒をもらっているだけでは、相続廃除は難しいと一般的には理解されています。
家制度があった当時は「親の意に反した婚姻」が廃除事由にあたるという議論(家をまもるには旦那とその一族が誰かは結構重要)もありましたが、それも遠い昔のことです。個人の権利を中心に考えるようになった現在、親の理想(真面目に働いて欲しい)に叶わないだけでは足りず、親にも相応の迷惑をかけた場合でなければなりません。今では、相続廃除が子の相続権を奪うという重大な制度であり、親にそれだけの迷惑を掛けた場合に「だけ」許されるものだというのが通説です(相続廃除に関心ある方は、下記をご覧ください。)。
脇道にそれましたが、画像は、どちらも天の川という名前の和菓子です。左が「とらや」右が「甘春堂」です。京都に仕事にいったとき、頂き、食べてきました。とらやは、やはり錦玉(寒天と砂糖を混ぜた透明の菓子材)の使い方が抜群で本当にキレイです。また、元々青色は食材には不向きなんですが、それを堂々とこんなに濃く中心的に取り扱った甘春堂のセンスには、ホレボレします。
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相続廃除とは
親子の縁を切るという意味で「お前は勘当だ」という発言を聞くことがありますが、それが相続権をはく奪するという意味であれば、今回ご紹介する相続廃除というのが、似たような効果を導く制度といえます(漢字が「廃」除であって「排」除ではないので、注意してください。)。
相続廃除は、被相続人の意思により、家庭裁判所が推定相続人の相続資格を奪うという制度になっています(892、893条)。
被相続人の意思によるという意味で、当然に相続資格が失われる相続欠格(891条)と異なります。また、被相続人の意思によるので、その反対に取消(宥恕)を求めることも出来ます(894条)。
相続欠格と異なり、代襲相続も認められません(887条2、3項、889条2項)。
遺留分を有する推定相続人
法定相続人には、法定相続分があります(900条)。
被相続人は、遺言で相続分の指定も出来ますが、法定相続人の遺留分を害することは出来ません(902条1項)。
ところが、廃除によれば相続資格そのものが奪われるので、法定相続人には遺留分すらなくなります。逆に、被相続人は、遺留分のない法定相続人(兄弟姉妹)については、遺言で相続に関する全ての権利を奪うことが出来ます。そこで、廃除の対象になるのは「遺留分を有する推定相続人」と解されています(892条)。
相続廃除の要件
相続廃除は「虐待」「重大な侮辱」「著しい非行」が要件となっています。
ただし、法定相続人に与える影響が多いので、廃除の要件を充たすかは「単に被相続人の主観的な感情や恣意だけで判断されるべきものではなく、そのような行為に至った背景を踏まえつつ、社会通念に照らして客観的に判断」されるべきとされています(窪田「家族法第2版」有斐閣381頁)。
例えば「少年非行の場合は、非行の原因が少年にばかりあるとはいえないので、少年時代の行為のみでは廃除の原因にはなり得ないとも解されています(坂本「廃除事由に関する最近の審判例の動向」判タ1100号320頁以下)。また、被相続人の側に誘発責任がある場合には、人的信頼関係を破壊したのが被相続人の方であるとの理由により、廃除の理由に該当しない場合がある」とされます(潮見「相続法[第2版]」弘文堂27頁)。
相続廃除の意思表示
相続廃除の意思表示を、特に遺言で行う場合「『廃除』の言葉を用いる必要はなく、原因(事由)を示す必要もないですが「相続上の利益を一切与えない趣旨が明示」されていれば足りるとされています(伊藤「相続法」有斐閣186頁以下)。
ただ、そうなると、例えば、遺言で「誰々には与えない」という趣旨の記載がされている場合、それが相続分を0とする指定(902条1項)なのか、廃除の意思表示なのか問題になりますが、その影響力の強さを考えると後者であるして「判定には慎重を期する必要がある」とも思われます(前掲潮見28頁)。