特別受益における「生計の資本としての贈与」は、単なる「贈与」ではなく「生計の資本」としてのものであることが必要です。その程度でなければ、これを考慮しないまま具体的相続分を算定しても(903条1項)相続人間の不公平にはならないからです(具体的相続分については、https://kawanishiikeda-law.jp/blog/926)。

 

その意味で遺産の前渡しと認められるかどうかが重要であり、現金に関連し、検討される問題点を説明したいと思います。

 

 

借金の肩代わり

親が子に現金等を渡す場合、それが「生計の資本としての贈与」にあたるとされる典型例が、マイホーム資金の提供であり、独立して事業をする際の開業資金の交付もこれにあたります。

 

では、この反対として、子が事業に失敗した場合の尻拭いとして、親が子の借金の肩代わりをした場合はどうなるでしょうか。現金等を受け取ったのは、子ではなく債権者なので、一見「贈与」にあたらないように思えますが、この場合、親は子に対する求償権を取得します。親がこれを放棄したと認められる場合は、特別受益と考えることができるでしょう。

 

家庭裁判所の審判例の中にも、相続財産が4,860万円程で、相続人の夫のした不祥事につき、被相続人が身元保証契約によって昭和40年頃までに300万円を支払ったという事案において、その夫に対する「求償権の免除」は相続人に対する相続分の前渡しであったとして、相続時価格に評価替えした997万円を特別受益として持ち戻したものがあります(高松家丸亀支審判平成3年11月19日家月44巻8号40頁)。

 

 

学費

学費については、個々人の能力差もあり、子供たちの間で差が生じやすいです。ただ、それも個々の能力による部分があるのでやむを得ない場合が多く、通常は、親の扶養義務(730条)の範囲だとされていて、最近では、私立医大の学費・入学金、海外留学費用といった程度でなければ、生計の資本の贈与としては認められにくいようです。

 

 

生活費等の援助

生活費等の援助は小口になされますが、まとめるとそれなりの金額になります。この点どうあつかうのか、親の扶養義務とも関連し、難しい問題です。

 

審判例の中には、相続財産が2億6,700万円程の事案で、相続人の1人が送金等による金銭援助として平成4年から同8年にかけ合計950万円程の贈与を受けていたと主張されたものについて、裁判所は、金銭援助の認められるのは当事者間に争いのない700万円程だと絞り込みました(金銭ノートの記載や陳述書では証拠として不十分だとしました。)。その上で、遺産総額や被相続人の収入(平成2~4年は800万円程、同5年は1,050万円程、同6、7年は1,190万円程、同8、9年が400万円程、同10~11年は180万円)からして「一月10万円に満たない送金は親族間の扶養的金銭援助にとどまり、これを超える送金のみが生計の資本としての贈与と認められる」として、628万円を特別受益として持戻しをしたものがあります(東家審平成21年1月30日家月62巻9号62頁)。

 

ここで「一月10万円」という基準を一人歩きさせてはいけませんが、先ずは「援助額の立証」が重要であって、そこをクリアーしたとしても「遺産総額や被相続人の収入」といった視点から「扶養的金銭援助を超えるものであることの立証」も必要とされることがあることに注意すべきでしょう。

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