1 争点と最高裁の判断

 

(1)問題の所在

旧民法900条4号は「子…が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1と…する」としていました。嫡出子といっても、法的には幾つかの種類があるのですが、世間一般的には「婚姻関係にある男女の間で出生した子」という意味で使われることが多いです。

 

つまり、A男が、結婚したB女との間に生まれてきた子Xが嫡出子であり、結婚していないC女との間に生まれてきた子Yが非嫡出子となります(ただし、Aの認知が必要。)。例えば、Aが死亡し、その相続人がXとYだけしかおらず、その相続財産が900万円の現金しかなければ、お互いの法定相続分はXが600万円、Yが300万円ということです。

 

(2)争点(憲法141項との関係)

このような旧民法をそのまま解釈すれば、遺言等がない限り、婚姻関係のない男女の間に生まれた子(非嫡出子)に認められる相続分は、嫡出子の半分ということになります。例えば、嫡出子Xが遺産分割審判を申立てれば、家庭裁判所としても、民法のそのような解釈を前提として、審判をしていました(民法907条2項、906条)。

 

今回最高裁で問題になったYも、事案はそれほど単純ではないでしょうが、非嫡出子であることを理由に相続分が嫡出子の2分1であるという趣旨の審判を受けていました。

しかし、Yはこうした民法の規定が、憲法14条で保障される「法の下の平等」に反し無効ではないかという主張を行いましたが、東京高裁はこの主張を退けました。そこで、Yは、これに対し特別抗告をしました。

 

憲法14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であって…差別されない。」としており、立法府に裁量は認められるものの、合理的理由のない差別的取扱いは許されないと解されています。そして、憲法は「最高法規」とされていて「その条規に反する法律…は、その効力を有しない」とされています(憲法98条1項)。従って、民法900条4号の中に憲法14条1項に違反するものがあれば、その部分は存在しないものとして取扱われる訳です。

 

Yの特別抗告を受けた最大決平成25年9月4日(民集67巻6号1320頁、以下、平成25年最高裁決定といいます。)は、Yの主張を認めました。その後、平成25年12月5日には、民法が改正され、現在では上記下線部は削除されています。

 

(3)平成25年最高裁決定について

ポイントは、以下のとおりです(下線は村上の指摘です。)。

 

昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。

そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。

以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。

 

そこで指摘されたキーワードを解説すると以下のようになります。

 

1)民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向等

昭和22年の民法改正時においては、「法律婚の尊重」の目的により、嫡出子と非嫡出子との間に相続分の差をつけていました。相続分を半分にすることにより、非嫡出子が減ることも想定されていました。

これまで最高裁が民法900条4号をそのまま合憲としてきたことには、法律婚の尊重という考え方が背景にあります。しかし、民法改正時から平成25年最高裁決定がなされるに至るまでにおいて、家族の在り方や国民の意識等の背景事情が大きく変化してきてきたということです。

 

2)諸外国の立法のすう勢

諸外国においても非嫡出子の相続格差を撤廃する方向で立法整備が進んでおり、平成25年最高裁決定のなされた当時には、その存在意義を疑問視する声があがっていました。

 

3)個人としての尊重、権利の保障

子は親を選択する余地がないため、親の行為の不利益を子が負うべきではありません。平成25年最高裁決定の時点では、子を個人として尊重し、権利を保障すべきだという考え方が確立されてきていました。

 

(4)解決済みの事案への影響

最高裁の決定は、当該事件に関するもので、当該事件の限りにおいて法的効力を有するにすぎないと解されています(これが通説で、個別的効力説といいます。)。しかし、今回の決定を受け、今後は非嫡出子について同様の判決が下されることが予想されました(このような状態を「事実的」効力といいます。旧民法900条4号を前提に審判しても違法という訳ではないのですが、最高裁にいけば同様に覆されてしまうので、事実上そのような審判はなされないといった意味合いです。通説は、個別的効力説を前提にしながらも、最高裁の違憲判断にはこのような効力が存在することも認めています。)。ただ、民法900条は、相続法に関する基本規定ですから、その影響力を考え、最高裁は既に確定された遺産分割の審判及び裁判、その他解決済みの事案については、再度争えない、としました。

 

本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない

 

2 平成25年最高裁決定の影響

 

(1)確定的な法律関係とは

先ず、最高裁決定の懸念している影響力の点です。影響を及ぼさないとされているのは、旧民法900条4号を前提として過去になされた「確定的な法律関係」です。

 

遺産分割の協議や審判は財産毎になし得るので、「未分割財産」についての争いが生じることが考えられます。また「協議」は素人同士で緩やかな形で交わされることが多いので、それが「確定的」なものかどうか、その評価と関連し争われることも多いと思います。

 

なお、平成25年最高裁決定のなされた当時は、可分債権・可分債務が相続された場合「法律上当然分割」されるというのが判例の立場でした(最1小判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁以下、最2小判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁。現在では、その一部は変更されていて、最大判平成28年12月19日は「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となる」としました。ただ、平成25年最高裁決定以降の判例変更なので、今回の論点に関しては大きな影響はないと考えられます。)

しかし、平成25年最高裁決定は「債務者から支払を受け、又は債権者に弁済をするに当たり、法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから、相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がなされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではない」としていますので、注意が必要です。

 

(2)認知について

次に、今後「認知」は増えていくでしょう。

最高裁決定は「嫡出でない子の出生数が…平成23年でも2万3000人余」全出生数に占める割合としては「約2.2%にすぎない」と指摘していますが、これは認知されたものだけではありません(戸籍法52条2項が「嫡出でない子の出生の届出は、母がこれをしなければならない。」としているもので、この場合、戸籍の父親欄は空欄のままです。そして、このような子が認知を受けた場合には戸籍の父親欄に父親の名前が記載されます。)。

基礎知識としては「嫡出でない子は、その父…がこれを認知することができ」これによって、法的な親子関係が形成されます(民法779条)。ここでいう「嫡出でない子」の数も増えていくでしょうから、その中で「認知」を受ける数も増えていくでしょう。

被相続人にしてみれば、生前認知はバツが悪いかもしれませんが、認知は遺言でも可能です(民法781条2号)から、このような形も増えていくかもしれません。

 

 

(3)親子としての生活実態

最後に、最高裁決定は、非嫡出子が生まれた経緯を問題にしていません。嫡出でない子が生まれる経緯は様々で、例えば、A男とB女の婚姻関係が破綻した後、離婚しない・できないまま、C女と付き合い同居して、Yが生まれた場合もあるでしょう。このような場合、AY間に共同生活の実体がありますが、そのような生活実体のない場合も多いと思われます。今回の最高裁決定を受けた世間の評判は、予想以上に悪いように思われますが、それにはこのような事情があるからかもしれません。

 

すると、生活の実体が、AX間にあって、AY間になかった場合、Xが「Aの面倒を見てきた」として、今まで以上に熱を帯びた形で「寄与分」の主張をしていくことが考えらえます(民法904条の2)。また、自らの相続分が一層有利になるよう生前のAに遺言作成の働きかけも増えてくるかもしれません。

 

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