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相続放棄の撤回はできません(民法919条)が、錯誤取消(民法95条)はできるでしょうか。この点、最高裁は「相続放棄は家庭裁判所がその申述を受理することによりその効力を生ずるものであるが、その性質は私法上の財産上の法律行為であるから、これにつき民法95条の規定の適用があるのは当然」としています(最判昭和40年5月27日・家月17巻6号251頁)。では、どのような場合に、錯誤取消は認められるでしょうか。

 

意思表示に錯誤がある場合

先ず、相続放棄の「意思表示」に錯誤がある場合において、それが「法律行為の目的及び取引上の社会通念」から「重要」であるとき、重過失ない限り、錯誤取消が認められるのが原則です(95条1項1号、同条3項本文)。

 

父が死亡しその相続人が母と兄妹2人の場合、兄に父の遺産を「贈与」する意思で(贈与書だと思って)、母妹が相続放棄に関する書類を作成提出した。

 

この場合、母妹に相続放棄をするという意思はなく、意思表示の錯誤はあります。ただ、贈与であれ放棄であれ、兄に遺産が帰属するという点で、最終的な効果は同じですから、それが「重要」といえるか問題になりますが、相続放棄に関する書類にはそのための書類であることが明確に書かれていますので、重過失とされることが多いでしょう(錯誤取消×)。

 

動機に錯誤がある場合

続いて「動機(法律行為の基礎とした事情)」に錯誤がある場合にも、動機が「表示」されているなら、上記のとおり「重要」で「重過失」ない限り、錯誤取消が認められるのが原則です。

動機に錯誤がある場合として、よく主張されるものとして、以下のようなものがあります。

 

  1. 兄が母の面倒をみると思ったので母妹が相続放棄して父の自宅を兄のみに相続させたにもかかわらず、兄が母の面倒をみなかった場合
  2. 父には負債しかないと思って母・兄妹共に相続放棄したところ、負債を遥かに超える遺産があった場合
  3. 母に父の自宅を相続させようと兄妹が相続放棄したところ、父の子である兄妹が「初めから相続人とならなかったもの」とされる(939条)結果相続順位(889条)によって、これまで会ったこともない父の弟(叔父)がでてきて母と共に相続人になってしまった場合

 

 

問題は、相続放棄は、それにより利害関係を有する者がいるものの、相手方のいない単独行為であるが故、どのように「表示」されなければならないかにあります。この点、相続放棄は「家庭裁判所に申述」という形式によって行うところ、その書類には「放棄の理由」を述べるところがあり、そこへの記載を通じて動機が利害関係人に表示されているならば、動機の錯誤の主張は認められるとした判例がでてきたことは注目されます。

 

※参考判例

上記②と同じく遺産の構成〈大きさ〉に錯誤があった例(福岡高判平成10年8月26日・判時1698号83頁)

上記③と同じく放棄による相続分の行方に錯誤があった例(東京高判昭和63年4月25日・高民集41巻1号52頁)

 

ただ、上記①の事例については、それが、いわゆる広義の動機として、法律行為の「基礎」とまでいえるのか、また「重要」といえるのか「重過失」にならないか等、ハードルも高いかと思います。

なお、民法改正によって、錯誤の条文は随分変わりました。細かくて読み難いかもですが、写真の「」で括られているのが旧民法の条文で、その右にあるのが新民法の条文です。以上の解説は、新民法に基づいてしています。

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弁護士法人村上・新村法律事務所